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HIROKIM BLOG / 望月優大の日記

見えているものを見えるようにする。

家族主義的福祉からの脱出。17年前にエスピン=アンデルセンが日本について語ったこと。

ESSAYS BOOKS POLITICS

イエスタ・エスピン=アンデルセンという福祉国家論(正確には福祉レジーム論)の大家がいる。デンマーク人の学者で、20世紀の福祉レジームを「社会民主主義的」(北欧諸国等)、「保守主義的」(ヨーロッパ大陸諸国等)、「自由主義的」(アングロ・サクソン諸国等)という3つの類型に分けて論じたことで知られる。

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昨今の保育園問題を機に、にわかに日本の社会保障制度やシステムについても改革の機運が高まってきたようなので、彼がかつて日本社会の未来について語っていたことを改めて知るのも良いかなと思う。1999年の『ポスト工業経済の社会的基礎』という本には日本語版序文があって、17年前に書かれたとは思えないほど、いま取りざたされている問題の本質が描出されている。ページ数にしてわずか6頁の小文である。

ポスト工業経済の社会的基礎―市場・福祉国家・家族の政治経済学

ポスト工業経済の社会的基礎―市場・福祉国家・家族の政治経済学

  • 作者: G.エスピン‐アンデルセン,Gosta Esping‐Andersen,渡辺雅男,渡辺景子
  • 出版社/メーカー: 桜井書店
  • 発売日: 2000/05
  • メディア: 単行本
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エスピン=アンデルセンの福祉レジーム論の根幹的なアイデアは、保育や介護など様々な福祉(welfare)が社会のなかでどのように供給されるかはそれぞれの社会ごとに大きく異なり、そのあり方によってざっくりいくつかのパターンに分けられるということだ。大きく分けて、福祉は①家族、②市場、③国家から供給されるが、①②③のどれが優位かは国や社会によって異なる。

日本の福祉レジームは(中略)家族主義がその特徴である。つまり、市民の福祉はそのほとんどが家族のつながりのなかから生み出されるべきだと考えられているのである。

現在の保育や介護をめぐる問題を見るとき、この指摘は正しすぎるし、17年たっても大きく変わっていない部分だと思える。例えば私的な家族のあり方としての三世代同居を政策的に優遇して促進するといった政府のアイデアのうちに、こうした家族主義的スピリットが骨までしみ込んでいるさまを感じる。

日本が抜け出さなければならない状況、それは労働と社会的再生産の主体である現役世代が、福祉の担い手でもあらねばならないという家族主義的なこの状況だ。家族主義的な福祉レジームがかつて維持可能だったのは、「高度成長 x 性別役割分担」という一時的かつ本質的に性差別的な社会構造のなかだけだった。高度成長も性別役割分担も終焉したあとに、代わりに福祉を提供する方法を再構築できなければ、結局は一人一人の個人の限られた時間やお金が不幸な圧迫を受けるだけだ。いま、そのことを私たちは嫌というほど知っている。

おそらく最大のポイントは、日本の家族主義の問題である。男性が雇用保障と高賃金を当てにでき、女性が主婦にとどまる気でいたかぎり、家族主義に基礎を置く社会は、福祉国家を最少限に抑えたとしても、十分な福祉を提供することができた。しかし、こうした条件は今日の日本では急速に失われつつある。ここから、きわめて低い出生率と、社会的ケアの迫り来る危機が生まれている。(中略)目標が女性の雇用と出生率を最大限に引き上げることであるとしたら、福祉国家の政策を根本的に考え直す以外、とるべき道がないことは明らかである。

すべての男女に働く自由と子どもを持つ自由、その両方を「実質的に」保障していくためには、福祉レジームをどのように転換していくかを具体的に構想する必要がある。ちなみに、エスピン=アンデルセンの福祉レジーム論の前提には、グローバル化や少子高齢化など容易に変更不可能なマクロ環境を前にしたとしても、制度やレジームが異なれば違う結果がもたらされるという論理がある。つまり「人間にできることはある」、そういう論理のことである。

プロフィール

望月優大(もちづきひろき)

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慶應義塾大学法学部政治学科、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了(ミシェル・フーコーの統治性論/新自由主義論)。経済産業省、Googleなどを経て、現在はIT企業でNPO支援等を担当。関心領域は社会問題、社会政策、政治文化、民主主義など。趣味はカレー、ヒップホップ、山登り。1985年埼玉県生まれ。
Twitter @hirokim21
Facebook hiroki.mochizuki

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