僕が『複雑』に込めたもの。日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」をはじめます
こんにちは。望月優大です。今日12月1日は私の独立以外にもう一つお伝えしたいニュースがあります。色々重ねすぎて最近はあまり寝れませんでした・・・笑
なお、独立についてはこちらにまとめていますのでぜひご覧になってみてください。
ニュースというのはこちらです。
難民支援協会とウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」をはじめます。
プレスリリース:
難民支援協会、日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』をリリース。外部より望月優大氏が編集長として参画|ニュースリリース|難民支援協会の活動 − 認定NPO法人 難民支援協会 / Japan Association for Refugees
ウェブサイト:
ニッポン複雑紀行 presented by 認定NPO法人 難民支援協会
大事なことは3つです。これを覚えてください。
ニッポン複雑紀行は・・・
- 日本国内にやってきた難民の方を支援する団体である「認定NPO法人難民支援協会」による事業としてのウェブマガジンであること。
- コモンセンス望月が編集長に就任すること。
- 取り上げるテーマは「日本の移民文化・移民事情」であること。
この3つです。
さらっと読んでしまうと思うんですが、これ、本当に凄いことなんです。
NPOがメディアをやるということのハードル
まず一つ目に寄付など歳入への貢献が見えやすいいわゆる「ファンドレイジング」ではない情報発信にNPOが本腰を入れて取り組むということ。これ、やりたいと思っているNPOはたくさんあります。でもやっぱり踏み込めない、そういう団体が多いのが事実だと思います。
だって、すぐに寄付が増える訳ではない。認知啓発は新聞がやってくれる、ブロガーがやってくれる。自分が限られたリソースを使ってやる意味なんてあるんだろうか。自分たちは資金調達・ファンドレイジングに集中しよう。こういう風に思うのは不思議ではありません。
メディアをやるってスキルとか知識だけの問題ではなくて、それらももちろん大事なのですが、やはりマラソンであるし、気力と体力がみなぎっていないとできない。そして、そのマラソンを支える資金面での裏付けが必要なんです。支え続けるんだという意思が必要です。
メディアをやるということは、コミュニティをつくるということだと思うし、もっと言えば文化をつくるということだと思っています。そこを見据えて、最後に問われるのは「本当にやりたいの?」これだけだと思います。
最後に乗り越えるのは「やりたい」という意思
難民支援協会の広報部には田中さんと野津さんという女性がいるのですが、彼女たちはここが完全にはっきりしていて。「やりたいんだ」とそれだけは揺るがなかった。「メディアやるって簡単じゃないですよ、わかってますか?」って詰めてもそこは揺るがなかったです。
田中さんに至っては「一緒に複雑紀行をやりたさすぎたのか、夢に望月さんの実家に行くシーンが出てきました」とぶっ飛んだ発言をされていました。意思というのは、無意識の領域すら侵食していくわけです。
田中さん
ただ、やはり予算はそんなに潤沢にあるわけではないのも事実です。営利企業でもオウンドメディアへの予算配分を正当化できていない企業はいくらでもあります。その中でNPOですから、よほど難しい。でも、ギリギリの予算を捻出してくださいました。自分もギリギリでお受けしています。本当にお互いギリギリの世界がここにあります笑
だから、読者のみなさん、応援してください笑。いや、質が低いのに応援してくださいとは言いませんよ。つまらなかったら大丈夫です。ただ、他のメディアよりちょっとだけ余計に愛を持って見てほしい。そうしたら、ちょっとでも面白いなとか引っかかりがあったら、いいねとかシェアとか自然にしてあげようという気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。奇跡のギリギリバランスで成り立っている、そのことを忘れないでいただけたら・・・笑
ウェブのデザインは良く言えばミニマム、悪く言えば物足りなく感じられるかもしれません。でも、そこにこのコンテクストと味わいを読み取ってもらえたらと思います。事務局長の吉山さんという男性の方がいらっしゃるんですが、事務局長直々にサイトを作ってくれました。そういう手弁当の情熱で出来上がっています。ミニマムだけど体温は確かにある。
体温という言葉が好きなんですが、意思のことなんですよね。意思と必要性は違いますよ。必要でもやりたくないことってありますよね。やりたいことはやりたいことなんです。必要性だけから生まれてくるものではありません。
体温のある人間からのみ生まれてくるんです。「はじめたい」という意思にちょうどいい形を与えるのが編集長をお受けした自分の仕事だと思っています。はじめたいので。
「子どもの貧困」も「ローカル」もなかった時代があった
そんな時代があったんです。
いま「当たり前」のことがそうでない時代がありました。思い出せると思います。確かにあったんです。10年くらいかけて、その境界線を僕たちはまたいできている。多くの人は意識しないうちに。
でも、固有名を出すことはしませんが、「あえて」一つの問題、一つのカルチャーにコミットし、その存在をメインストリームへと押し広げようとしてきた人たちがきっといたんです。「子どもの貧困」でもなんでもそうです。自分たちはその人たちがうううーっと手を伸ばした先に立っていたんだと思います。そして、僕らのうちの何人かがその手を掴んだ。
ニッポン複雑紀行が焦点を当てるのは日本の移民文化・移民事情です。「在留外国人」という呼称で括られる人たち、彼らの数は年を追うごとに増えています。昨年末で238万人ですが、今年はもっと増えているのではないかと思います。
この数字そのものに「良い」も「悪い」もありません。ただ、どんどん個別の現場に『複雑』が入り込んできているのだろうとは想像します。街に、学校に、不動産屋に、コンビニに、工事現場に、色々なところにです。単純な当たり前が幻想となり、複雑な現実に少しずつ置き換わっていく。
その一つ一つをミクロな視点でまずは見てみよう。そして、できうるならば、「複雑なほうがもっといい」と高らかに言ってのけながら新しい当たり前へと更新していきたい。移民文化に対する真っ当な関心と、より多くを知った人たちによるリスペクトが重なっていく地点を見据えたい。
もちろん摩擦やネガティブなこともあるでしょう。そこから目を逸らそうとは思いません。きちんと見る必要がある。とはいえ理想というものを心のどこかにきちんと持っておきたいということです。
プレスリリースに編集長として寄せた言葉を紹介します。
ニッポン複雑紀行のスタートに寄せて
2005年、19歳のとき、生まれて初めて日本の外に出ました。パリ北駅のCD屋で、移民とその子孫たちが紡ぐフランス産のヒップホップアルバムを買い込みました。ラテン地区にあるベトナム料理屋で、絶品のフォーを食べました。移民の人々が集住するサンドニスタジアム近くの団地のそばで、粉々のガラス片と骨組になった電話ボックスの残骸を見ました。
2017年、東京で暮らしていて、あのときのことを思い出します。難民支援協会のように、この国の中で日常的に外国人の方たちと接し、その生活を支えてきたNPOだからこそ見えること、社会に対して発信できることがあるはずです。その知恵と外部の力を掛け合わせて、読者が移民文化や移民事情の現実に触れるきっかけとなるような記事を少しずつ丁寧につくっていけたらと思っています。
こんな気持ちで、当たり前を少しずつ更新していけたらと思っています。ちっぽけな存在なんだから、ゆっくりで構わない。でも温度だけは失わないように。
僕が『複雑』に込めたもの
さて、改めてですが、このウェブマガジンは「ニッポン複雑紀行」と名付けました。ニッポン、複雑、紀行、どれも大切なのですが、どれが一番大事かと言えば『複雑』ですよ。これが一番大事。タグラインはこうです。
"ニッポンは複雑だ。複雑でいいし、複雑なほうがもっといい。"
言い切ってみました。だから、気に入っています。
『複雑』ということで一つ思い出すことがあります。
Funky DLというイギリス出身の黒人ラッパーがいて、
なかでも好きだったのは “Simply 2 Complicated” という2001年の曲で
「
サビの最後でDLは
“If you don’t walk in my shoes, don’t tell me how it is”
とシャウトします。
「自分と同じ立場に立つのでないなら、
という意味です。
”Don't judge a man until you have walked a mile in his boots.”
要は「他人の立場で勝手に裁くな」
知らない人ほど単純化しようとします。
ニッポンは複雑だ。複雑でいいし、複雑なほうがもっといい。
他人の立場で勝手に裁かない。
当たり前は必ず誰かが更新していくんだ。
ニッポン複雑紀行
日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン
- 企画主催|認定NPO法人 難民支援協会
- 編集長|望月優大(株式会社コモンセンス代表)
- ロゴデザイン|中屋 辰平(グラフィックデザイナー)
- 協力|ゴールドマン・サックス証券株式会社
1本目の記事は来週12月6日にお届けする予定です。
プロフィール
望月優大(もちづきひろき)
ライター・編集者。株式会社コモンセンス代表。日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。BAMPで「旅する啓蒙」連載中。経済産業省、Googleなどを経て、スマートニュースでNPO支援プログラム「ATLAS Program」のリーダーを務めたのち独立。低所得世帯の子どもたちに教育機会を届ける「スタディクーポン・
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