望月優大のブログ

見えているものを見えるようにする。

『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』(ジョーン・C・ウィリアムズ)

とても面白く読んだ。著者はアメリカ人全体を所得でざっくり3つに分類する。エリート、ワーキングクラス、貧困層、この3つ。

基本的に彼女が話しているのは階級(class)や階級文化(class culture)のことで、ワーキングクラス(白人が多い)の状況とそれに紐づく一般的な感情や考えを理解しよう、そして共生していく道を探ろうという趣旨になっている。

アメリカを動かす『ホワイト・ワーキング・クラス』という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える

アメリカを動かす『ホワイト・ワーキング・クラス』という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える"真・中間層"の実体

  • 作者: ジョーン・C・ウィリアムズ,山田美明,井上大剛
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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言い換えれば、それは貧困層やマイノリティのほうばかりを見て、真ん中の層を真剣に見てこなかったリベラル勢への(自己)批判としての意味合いを帯びる。文中では、著者自身が一流大学の白人の女性教授として、「エリート」に属していることを意識しながら書いていることを示している。

f:id:hirokim21:20170926120712j:plain所得の中央値で3つの階級(class)に分類を行っている。

ワーキングクラスの人々が何を大切にし、何に不安を感じ、エリートのどんな生き方を侮蔑し、貧困層のどんな振る舞いに怒っているのか、理解せずに彼らを馬鹿にしたり批判したりしてきたのではないかと、自身も属する(そう分類される)リベラルエリートに対してのそうした問いかけをこの本は行っている。自分たちの「よい文化」を「悪い文化」をもった人々に押し付けようとするな、そういうメッセージとも取れる。

専門職階級にとってもワーキング・クラスにとっても、階級文化の隔たりを埋めるのは難しい。その隔たりを埋めるにはまず、エリートの生活・思考・行動様式を「よい趣味」として認識するのではなく、それも一つの様式でしかないと認識することだ。(62頁)

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エリートの潜在的な尊大さ、利他的な振る舞いを身にまといつつわかりやすい弱者以外を敗者として片付けてしまう精神性、そういった構造的な問題のありかを、この本は指し示している。そして、著者がこの状況について感じているのは、それが倫理的に正しくないと同時に民主主義の危機でもあるということだ。

話は単純だ。「大学を卒業していない全国民の三分の二はよい人生を送れない」と誰もが思っていることに、ワーキング・クラスは気づいている。しかもエリートは、他のグループには平等な立場を約束しておきながら、「地方のキリスト教原理主義者は救いようがないほど頑固だ」などと傲慢にも言い放つ。白人のワーキング・クラスが世の中から疎外されていると感じるのも当然だろう。苦しい生活を送っている白人たちは、「政治的公正」への批判を通して、裕福な白人たちを利口ぶっていると攻撃する。こんな状況を見て、それでも何の問題もないと思う人がいるのなら、どうぞこれまでどおりのやり方を続けていただきたい。(220-221頁)

世界を見渡したとき、この危機がアメリカだけの話だとは到底思えなかった。

プロフィール

望月優大(もちづきひろき) 

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慶應義塾大学法学部政治学科、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了(ミシェル・フーコーの統治性論/新自由主義論)。経済産業省、Googleなどを経て、現在はIT企業でNPO支援等を担当。関心領域は社会問題、社会政策、政治文化、民主主義など。趣味は旅、カレー、ヒップホップ。1985年埼玉県生まれ。
Twitter @hirokim21
Facebook hiroki.mochizuki
 

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