望月優大のブログ

見えているものを見えるようにする。

私たちは私たちの(無)関心とどう付き合うか。ムクウェゲ医師と『女を修理する男』上映会の記録。

先日『女を修理する男』という映画の上映会を開催しました。日本国内で難民支援の活動をしている難民支援協会さんとWELgeeさんと一緒に企画したこの上映会、当日は100名ほどの方にお越しいただくことができました。学生、社会人、メディアや大学、NPO関係の方々もいらしていました。

上映会当日までの思い出深い経緯なども含めて、今後のためにも徒然なるままに記録しておこうと思います。

2/2 映画「女を修理する男」上映会+トークショー - 私たちは私たちの(無)関心とどう付き合うか | Peatix

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当日は最初に15分ほど会の経緯や映画の背景情報について簡単にお話し、その後映画を観て、最後に振り返りのトークを行う、という形で進めました。丸々3時間の盛りだくさんイベントです。

いきなり余談ですが、映画を観たあとにこのような形で消化できる時間があると個人的にもとてもいい体験だなと思います。誰かと話したり、誰かの感想を聞いたりしたいじゃないですか、映画のあとって。同じもやもやでも誰かと共有したもやもやはまた違うものになっていたりしますよね。

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上映会をすることになったきっかけについてもお話しました。

昨年10月にこの映画の主役であるデニ・ムクウェゲ医師が日本に来日されていました。私とWELgeeの渡部さんは彼の講演会を聞きに行ってその内容や感想をブログにアップし、難民支援協会の野津さんはHuffington Postによるムクウェゲ医師へのインタビュー記事に関わっていました。

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こちらです。

ムクウェゲ医師はノーベル平和賞の候補とも言われており、コンゴの惨状を世界中に伝えるために各国を回っていました。日本にもそのツアーの途中で立ち寄ったわけですが、期せずして私たちがそれぞれムクウェゲ医師の言葉や活動に感銘を受け、できるだけ多くの人に知ってもらいたいと考えて記事をつくっていたわけです。

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印象的だったのが、どの記事も当時とても多くの方に読まれたということでした。中東での紛争や欧米でのテロに比べて全くと言っていいほど注目されていないという危機感を持ってムクウェゲ医師は世界中を回っていたと思います。

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それが、一人一人がそれぞれの思いでつくったムクウェゲ医師についての記事がとても多くの日本人に読んでもらうことができた、そのことに勇気づけられました。そこで、ムクウェゲ医師のこと、コンゴのことをもっと多くの人に知ってもらおう、ムクウェゲ医師へのリスペクトを次につなごうということで、この映画の上映会を企画しました。

ちなみに野津さんと渡部さんはこういう人たちです。

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さて、私たちが多くの人に観てほしいと思った『女を修理する男』が一体どんな映画かについても少しだけ説明します。 

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ムクウェゲ医師が生まれたブカヴという都市があるコンゴ東部では、長きにわたって大規模かつ筆舌に尽くしがたいほどの性暴力が行われてきました。ムクウェゲ医師はそれを「性的テロリズム」と呼びます。

なぜかというと、彼はコンゴ東部で組織的に行われる性暴力を性欲ではなく、(経済的)インセンティブに基づいた行為だと考えているからです。つまり、スマホなどの電子機器の素材となる鉱物資源(タンタルなど)を支配するために、そうした性暴力が道具として用いられているということです(詳しくは記事を読んでください)。

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このことを知って衝撃を受けない人はいないと思います。ただ、同時にこんなことも思うかもしれません。とはいえ自分に何ができるのかと。

私も思いました。ただ、そのもやもやから目を背けるのがいやだったので、この上映会の副題として「私たちは私たちの(無)関心とどう付き合うか」という言葉を添えてみました。関心と無関心の間、できることとできないこととの間で一人一人がどんな風に考え、行動していくか。そのことを改めて来ていただいた人たちと一緒に考えてみたかったんですね。

遠い国での紛争や暴力、そうした背景のうえに生産される商品、それを知らずに使っている人々、否応なく発生する人間の移動と受入にまつわる摩擦。これらのことを考えてすっきりとした答えが出ることはないでしょう。だからこそこの上映会が「見ないでいようと決め込む」以外のスタンスを見つけるためのヒントになってほしいと思いました。自分にとっても、です。

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最後にトークショーで印象に残った言葉を少しだけ。

一つは、野津さんの言葉。Q&Aのときに会場から「日本はこれから難民を受け入れるべきかどうか、考えを教えてください」という質問がありました。野津さんはこんなふうに答えていました。「難民を受け入れるべきかどうかというよりも、難民の方はすでに来ている」のだと。

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野津さんが働いている難民支援協会は日本に来た難民の方が難民申請をする際に助けを求めることができる命綱のような存在です。日本に来る方の多くは日本語が話せず、難民申請の手続きもわからない。どうやって生活をしていけばいいかもわからない。日々やってくるそうした人たちに対する支援に取り組まれている野津さんだからこその言葉だと思いました。悠長なことは言っていられません。コンゴからの難民も増えているそうです。

もう一つは渡部さんの言葉。

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渡部さんのWELgeeという団体では日本にいる難民と一般の家族とをつなげる「難民ホームステイ」という事業をやっています。とある農家の家族へのホームステイの話が面白かったです。私たちは「難民」という記号というか法的なカテゴリでつい考えてしまいがちだけれど、WELgeeの活動を通じて実際にホームステイをし、家族と一緒の時間を過ごす難民の方一人一人は私たちと同じ人間だと。それを受入先の家族も自然と理解して愛着や関係性が生まれてくるそうです。

これは難民問題に限らず貧困問題でも虐待問題でも同じことだなと思います。私たちは会ったこともない人たちのことをどうしても何某かのカテゴリや括りで考えてしまいがちです。というか、それ自体が問題だとは思わないのですが、実際に会ったり、映画を観たりすることで「一人一人の人間」の具体的な生き様を想像する、その努力も同時に大切だなと改めて感じました。会場にはコンゴからの難民の方が来てくださっていて、話したらスーパーナイスガイでした。

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関係したみんなで最後に撮った写真です。みんな若いのにすごいなと、希望だなと思います。 自分は若いころもう少しひねくれていたのでリスペクトしかないです。上映会のために力を貸してくれた全ての人に感謝します。

それと最後の最後に一番大事なことです。なんとこの『女を修理する男』の短縮版が明日2/7の23時からNHK BS1で放映されるそうです。今後の上映会の予定は今のところないそうなので、ぜひこの機会をお見逃しなく。

もし観れたら、観て感じたことを周りの人と話してみてください。

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プロフィール

望月優大(もちづきひろき) 

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慶應義塾大学法学部政治学科、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了(ミシェル・フーコーの統治性論/新自由主義論)。経済産業省、Googleなどを経て、現在はIT企業でNPO支援等を担当。関心領域は社会問題、社会政策、政治文化、民主主義など。趣味はカレー、ヒップホップ、山登り。1985年埼玉県生まれ。
Twitter @hirokim21
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