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ワシントン州司法長官が信教の自由を保障する憲法修正第一条を巡ってトランプ大統領らを提訴へ「法廷では最大の声よりも憲法が勝る」

大きなニュースが飛び込んできた。

全米初、大統領を提訴へ=入国禁止令は「違憲」-ワシントン州:時事ドットコム

米西部ワシントン州のファーガソン司法長官は30日、トランプ大統領や国土安全保障省などを相手取り、難民やイスラム圏7カ国の出身者らの一時入国禁止を命じた大統領令を「違憲」とする訴訟を同州シアトルの連邦地裁に起こすと発表した。同日中に提訴する。同大統領令をめぐり州司法長官による提訴はワシントン州が初となる。

難民や7カ国の人々の入国制限に関する大統領令についてはこれまでもブログに書いてきたが、ついに州政府がこの件をめぐって大統領本人と国土安全保障省を連邦地裁に提訴するというところまで事態が進展したということだ。

この時事の記事にはワシントン州のファーガソン司法長官が「大統領でさえも、法を超越しない」と発言したとの記載があり、その原文がどんなものか気になり探してみた。

ファーガソン司法長官は、大統領令は憲法に定められた法の下の平等や、信仰の自由などを侵害していると指摘。「大統領でさえも、法を超越しない」と強調した。

というのも、ここで言われている「法」が何なのかということが実際の訴訟においてとても重要であるだけでなく、大統領と憲法との関係を問題にするような意味合いも込められているのではないかと思ったからだ。

さて、ワシントン州の地元紙であるThe Seattle Timesの記事に、おそらくこの発言の原文にあたるのではないかと思われる文章を見つけることができた。時事の「大統領でさえも、法を超越しない」という直接的な文章とはやや趣が異なるが、おそらくこちらではないかと思う。

AG Bob Ferguson to file lawsuit seeking to invalidate Trump’s immigration order | The Seattle Times

“We are a country based on the rule of law. In a courtroom, it is not the loudest voice that prevails. It’s the Constitution,” Ferguson, a Democrat, said at a news conference in Seattle.

「私たちは法の支配に基礎を置く国である。法廷では、最も大きな声が勝つのではない。憲法が勝つのである。」民主党員のファーガソンはシアトルでの記者会見でこう発言した。

実際には、憲法修正第一条が争点になるようだ。記事にはこうある。

Noah Purcell, state solicitor general in Ferguson’s office, said Washington’s lawsuit will argue Trump’s executive order violates constitutional guarantees of religious freedom and equal protection.

ワシントン州のノア・パーセル訟務長官は、ファーガソン長官の事務所で、ワシントン州の訴訟はトランプの大統領令が憲法によって保障された信教の自由とその平等な保護を侵していると主張するだろうと語った。

憲法修正第一条の具体的な条文も参考まで紹介する。

Congress shall make no law respecting an establishment of religion, or prohibiting the free exercise thereof; or abridging the freedom of speech, or of the press; or the right of the people peaceably to assemble, and to petition the Government for a redress of grievances.

合衆国議会は、国教を樹立する法律もしくは自由な宗教活動を禁止する法律、または言論もしくは出版の自由または人民が平穏に集会し、不平の解消を求めて政府に請願する権利を奪う法律を制定してはならない。

(翻訳は 新版 世界憲法集 (岩波文庫) より)

トランプの大統領令がこの修正第一条をどのように侵しているかという点だが、キリスト教徒とそれ以外の宗教の信者を入国管理上差別しているというポイントが争点になるようだ。ワシントン州知事がその点についての発言をしていることが同じThe Seattle Timesの記事で触れられている。

The attorney general was joined by Democratic Gov. Jay Inslee, who blasted Trump’s refugee ban aimed at several war-torn, Muslim majority nations — and giving precedence to Christians — as “un-American.”

“The fact is that its impact, its cruelty, its clear purpose is an unconscionable religious test,” Inslee said, pointing to the executive order’s provision calling for prioritizing the admittance of Christian refugees.

具体的には、大統領令において7カ国のイスラム教徒が多数を占める国民の入国を停止しているという点、加えて難民受け入れ停止の例外措置として宗教的少数派の受け入れについては例外を許容する余地を認めているものの、それがキリスト教徒を優遇するという差別的な措置として利用される可能性がある点が問題にされている。

後者の難民受け入れにおけるキリスト教徒の優遇の恐れについては、トランプ自身のこれまでのツイッター及び様々なメディアでの発言が原因になっている。

例えば1/27のトランプによる発言。これは大統領令署名前の発言で、「シリアのキリスト教徒のほうがイスラム教徒よりもより強く迫害されており、米国への入国がより難しい、それは不公平だ」という趣旨のことを述べている。

“Do you know if you were a Christian in Syria, it was impossible, at least very tough, to get into the United States?” Trump asked. “If you were a Muslim, you could come in, but if you were a Christian, it was almost impossible. And the reason that was so unfair ― everybody was persecuted, in all fairness ― but they were chopping off the heads of everybody, but more so the Christians. And I thought it was very, very unfair.”

Donald Trump Says He Would Prioritize Resettling Christians Over Other Refugees | The Huffington Post

こちらは1/29のツイート。

中東のキリスト教たちが多数処刑されてきた。私たちはこの恐怖が続くことを許すことはできない!

今後もワシントン州による訴訟の行方、そして他州での動きも引き続き注視していきたい。ワシントン州の訴訟は、当州に拠点を置くアマゾンやエクスペディアといった企業からも大統領令による「ビジネス上の不利益(negative business impacts)」があるとして賛同を得ている。

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プロフィール

望月優大(もちづきひろき) 

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慶應義塾大学法学部政治学科、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了(ミシェル・フーコーの統治性論/新自由主義論)。経済産業省、Googleなどを経て、現在はIT企業でNPO支援等を担当。関心領域は社会問題、社会政策、政治文化、民主主義など。趣味はカレー、ヒップホップ、山登り。1985年埼玉県生まれ。
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