金子良事『日本の賃金を歴史から考える』を読んで。
金子良事『日本の賃金を歴史から考える』を読了。評判通り非常に勉強になった。
現在の社会不安が語られる際には、労働の外にあったり、労働を支えたりする社会保障、社会福祉の領域に焦点が当たることが多いけれど、労働の対価たる「賃金」がいまどうなっているかということを歴史的な布置の中において理解することもとても大切で。
逆に言えば、農村のセーフティネット機能と男性正社員モデルの両方が崩壊した後の時代に、個々人の生活を長期的に支えることができる雇用・賃金の仕組みが出来上がっていないことが、社会保障への大きな期待と、結果としてそれに応えることができない国家への不満を招いている。
気を緩めると徐々に落ちていく「降格する貧困」の裏側には、賃金を通じて生活を安定化していくという考え方自体の社会的な挫折があり、それを放置したままより多くの人を労働に駆り立てても、不安定な労働者を増やすだけで物事の本質的な解決にはつながらないのではないかという危惧を強くした。
いずれにせよ、日本の雇用を歴史的な文脈に置いて理解するには必読の一冊。
本書推薦の読書リストからメモ
- 小池和男 日本産業社会の「神話」―経済自虐史観をただす
- 孫田良平監修・NPO法人企業年金賃金研究センター 賃金の本質と人事革新―歴史に学ぶ人の育て方・活かし方
- 連合総研 日本の賃金ー歴史と展望ー調査報告書
- 高木郁朗 労働経済と労使関係 (連合新書14)
- 濱口桂一郎 新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)
- 濱口桂一郎 日本の雇用と労働法 (日経文庫)
- 清家篤 労働経済 (やさしい経済学シリーズ)
- 厚生労働省 労働経済の分析(年度版)
関連エントリ
プロフィール
望月優大(もちづきひろき)
慶應義塾大学法学部政治学科、
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