HIROKIM BLOG / 望月優大の日記

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難民受け入れ等に関するトランプ米大統領令「米国への外国人テロリストの入国から国民を保護する」について

1/27日金曜日に署名された米大統領令について情報を整理しておきたい。トランプ大統領の就任以降、毎日のように大統領令が出されているが、その一つについてである。

シリア難民の受け入れ停止やシリアを始めとする7カ国の人々に対するビザの発給停止など様々な措置を含むこの大統領令には “Protecting the Nation From Foreign Terrorist Entry Into the United States.” というタイトルがついている。日本語にすると「米国への外国人テロリストの入国から国民を保護する」となる。

大統領令の英語全文がNew York Timesにアップされている。大統領令の日本語全訳はまだ目にしていない。

この大統領令にはINA (Immigration and Nationality Act ; 移民国籍法) やU.S.C. (United States Code ; 合衆国法典) への参照が多数あり、大統領令だけを読んですべてがわかるわけではない。各種記事などを読みながら今のところわかっている情報を整理した。

大きく分けると、①難民受け入れに関する措置と、②「特定の懸念がある」7カ国の国民の入国に関する措置のそれぞれについて書かれている。本当はそれ以外にもいろいろと書いてあるのだが、特に議論を呼んでいるこの2点について情報をまとめておく(関心がある方は大統領令の本文に当たってください)。また、最後に大統領令のあとに起きている出来事についても簡単に触れている。

①難民受け入れについて

大統領令のセクション5に書いてある。

Sec. 5. Realignment of the U.S. Refugee Admissions Program for Fiscal Year 2017.(会計年度2017年における米国難民認定プログラムの再編成)

まず、会計年度の2017年は、2016年10月から2017年の9月までの12ヶ月間である。なので、今のことである。1/27に大統領令が出されてからすぐに実効化されている。

以下のことが書いてある。まず、米国難民認定プログラムを120日間停止する、ということが書いてある。これは、あらゆる国からの難民受け入れを1/27から120日間停止するということである。

The Secretary of State shall suspend the U.S. Refugee Admissions Program (USRAP) for 120 days.

次に、上記の措置を前提としたうえで、シリア難民についてはさらに以下のことが書いてある。要約すると、シリア難民の入国は米国の利益にとって有害だから、私がその判断を変えるまでは(無期限に)受け入れを停止する、ということである。

I hereby proclaim that the entry of nationals of Syria as refugees is detrimental to the interests of the United States and thus suspend any such entry until such time as I have determined that sufficient changes have been made to the USRAP to ensure that admission of Syrian refugees is consistent with the national interest.

さらに、会計年度2017年の難民受け入れ総数についても言及がある。端的に言うと会計年度2017年は難民受け入れの上限を5万人とする、ということが書いてある。

I hereby proclaim that the entry of more than 50,000 refugees in fiscal year 2017 would be detrimental to the interests of the United States, and thus suspend any such entry until such time as I determine that additional admissions would be in the national interest.

5万人というのがどういう意味を持つかというと、昨年9月にオバマ大統領が11万人受け入れると宣言した人数の半分以下になっている、という意味合いがある。

米国は2013~15年にかけて年間7万人の難民を受け入れてきた。16年にはその数を8万5000人に拡大。17年の11万人受け入れが実現すれば、米国に入国する難民は15年から57%増加することになる。オバマ政権は従来、厳しい状況に置かれた難民のため、すべての国々が支援を強化するべきだとの立場をとっている。
CNN.co.jp : 米政府、17年に難民11万人受け入れ 15年から57%増

最後に、難民受け入れの停止期間中における例外的な取り扱いの可能性についても言及がある。具体的には、出身国内で宗教的少数派である場合や、既存の国際規約に従う場合、すでに米国に向けて渡航しており入国を拒否することが過度の困難をもたらす場合などにおいて、彼らを難民認定することが米国に対するリスクとならない場合にかぎり、入国を許可することもケースバイケースではありえる、ということが書いてある。

the Secretaries of State and Homeland Security may jointly determine to admit individuals to the United States as refugees on a case-by-case basis, in their discretion, but only so long as they determine that the admission of such individuals as refugees is in the national interest — including when the person is a religious minority in his country of nationality facing religious persecution, when admitting the person would enable the United States to conform its conduct to a preexisting international agreement, or when the person is already in transit and denying admission would cause undue hardship — and it would not pose a risk to the security or welfare of the United States.

難民受け入れについての内容を簡単にまとめると、

  • あらゆる国からの難民受け入れを120日間停止
  • シリア難民については受け入れを無期限に停止
  • 会計年度2017年の難民受け入れ総数を5万人に制限(オバマ大統領は11万人と言っていた)
  • 120日間の停止期間中、ケースバイケースで難民受け入れを行う可能性がないわけではない

②「特定の懸念がある」7カ国の国民の入国について

大統領令のセクション3に書いてある。こちらは難民に限らず特定の7カ国の国民による米国への入国に関する内容となっている。

Sec. 3. Suspension of Issuance of Visas and Other Immigration Benefits to Nationals of Countries of Particular Concern.(特定の懸念がある国の国民に対するビザの発給及びその他の移住に関する利益の停止)

各種報道にもある通り、「特定の懸念がある国」は以下の7カ国である。

  • シリア
  • イラク
  • イラン
  • イエメン
  • ソマリア
  • スーダン
  • リビア 

大統領令に書かれていることは、これら7カ国からの外国人の入国が米国の利益に対して有害である可能性があり、したがって今後90日間にわたって、移民であろうとそうでなかろうと、当該7カ国の国民は米国への入国を拒否される、ということである。移住を希望しているかただの観光目的かにかかわらず、入国自体が拒否されるということだ。

I hereby proclaim that the immigrant and nonimmigrant entry into the United States of aliens from countries referred to in section 217(a)(12) of the INA, 8 U.S.C. 1187(a)(12), would be detrimental to the interests of the United States, and I hereby suspend entry into the United States, as immigrants and nonimmigrants, of such persons for 90 days from the date of this order (excluding those foreign nationals traveling on diplomatic visas, North Atlantic Treaty Organization visas, C-2 visas for travel to the United Nations, and G-1, G-2, G-3, and G-4 visas)."

この文章が行政の現場においてより具体的にどのような形で執行されるかということが混乱を呼んでいるようだ。ワシントンポストの記事では、いわゆるグリーンカード(永住権)保持者であっても、当該7カ国の国籍を持ちかつ大統領令が出たタイミングで外国にいた者は、そのあと米国に帰国しようとする場合には入国を拒否されると政府職員が認めた、と報道されている。

また、当該7カ国との二重国籍者や、当該7カ国で生まれたあとに英国のような同盟国のパスポートを持つに至ったものも、同様に扱われるとのことである。(ここでの「二重国籍者」に米国との二重国籍者が含まれるかどうかは文章からは読み取れなかった。)

But as the day progressed, administration officials confirmed that the sweeping order also targeted U.S. legal residents from the named countries — green-card holders — who were abroad when it was signed. Also subject to being barred entry into the United States are dual nationals, or people born in one of the seven countries who hold passports even from U.S. allies, such as the United Kingdom. 

ちなみに、BBCの報道では、グリーンカード保有者の扱いは不透明だとされている。

It is unclear how the order will affect citizens with legal permanent residency - people with so-called green cards. Rights groups have advised people to consult immigration lawyers before travelling outside the US or trying to return

当該7カ国の国民の入国についての措置について簡単にまとめると

  • シリア、イラク、イラン、イエメン、ソマリア、スーダン、リビアの国民は、90日間、米国への入国を拒否する
  • 米国のグリーンカード保有者の扱いは不透明だが、グリーンカード保有者であっても、当該7カ国の国民は入国を拒否されると行政職員が認めたという報道もある

大統領令のあとに起きたこと

大統領令にもとづき、実際に多くの人々が米国の空港で拘束されたり、外国の空港で米国行きの飛行機への搭乗を拒否されたりということが始まっている。

ニューヨークのJFK国際空港では、1/28土曜日に11人が拘束された。これを見て多くの人々が空港に集まり「Let Them In」と声を上げた。

この動きと並行して、ACLU(アメリカ自由人権協会)所属の弁護士らがニューヨーク等の連邦裁判所に対して救済を申し立てていた。連邦裁判所は、米国全土において、大統領令を理由に拘束されている人々が出身国に強制送還されることによって回復不可能な損害が出てしまう可能性を認め、この申し立てを認めた。

まとめ

①難民受け入れについて

  • あらゆる国からの難民受け入れを120日間停止
  • シリア難民については受け入れを無期限に停止
  • 会計年度2017年の難民受け入れ総数を5万人に制限(オバマ大統領は11万人と言っていた)
  • 120日間の停止期間中、ケースバイケースで難民受け入れを行う可能性がないわけではない
②「特定の懸念がある」7カ国の国民の入国について
  • シリア、イラク、イラン、イエメン、ソマリア、スーダン、リビアの国民は、90日間、米国への入国を拒否する
  • 米国のグリーンカード保有者の扱いは不透明だが、グリーンカード保有者であっても、当該7カ国の国民は入国を拒否されると行政職員が認めたという報道もある
1/28土曜日に、連邦裁判所は、米国全土において、大統領令を理由に米国から強制送還されようとしている人々の救済を認めた。今後この大統領令がどのような形で運用されていくのかは不透明である。

(1/30追記)

本件についてのトランプ大統領による声明を全訳しました。

プロフィール

望月優大(もちづきひろき) 

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慶應義塾大学法学部政治学科、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了(ミシェル・フーコーの統治性論/新自由主義論)。経済産業省、Googleなどを経て、現在はIT企業でNPO支援等を担当。関心領域は社会問題、社会政策、政治文化、民主主義など。趣味はカレー、ヒップホップ、山登り。1985年埼玉県生まれ。
Twitter @hirokim21
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