1型糖尿病患者だったATCQのファイフがJ Dillaに贈った"Dear Dilla"のMVがとてもとても切ない
ATCQのラッパー、ファイフ・ドーグが先月23日に亡くなった。彼は少年時代から1型糖尿病を患っていて、インスリン注射を打ちながら生活していた。ファイフはのちに奥さんから腎臓移植も受けている。そんなファイフがついに亡くなった。ヒップホップ好きなら嫌いな人は絶対いない、そんな愛すべき存在だったように思う。
紹介したいのはファイフが2014年につくった"Dear Dilla"というMVである。DillaとはもちろんJ Dilla aka Jay Deeのことである。ATCQのQ-TipらとThe Ummahというプロダクションチームを組んで、実際にATCQの4枚目と5枚目のアルバムに参加している。J Dillaは2006年に32歳の若さで亡くなっている。血栓性血小板減少性紫斑病という血液病に罹っていた。自分より先に、自分より若くして亡くなったJ Dillaに対して、ファイフは"Dear Dilla"という曲を作ったのである。しかし、その曲は彼が亡くなった2006年ではなく、2014年につくられている。なぜだろうか。
ビデオはとある病室でのシーンから始まる。小柄なファイフがベッドで横になっている。ファイフは言う。「今は2005年。俺たちは同じ病室にいる。」
ふと横を見ると、J Dillaらしき人陰が隣のベッドでサンプラーを叩いている姿が見える。誰もが聞いたことのあるリズムからこの曲は始まる。
MVを見ていくと、この曲が何を歌っているかがよくわかる。この歌は、単にJ Dillaを追悼しているわけではなく、先に逝ってしまったDillaに対して、俺はがんばるぞということを歌っているのだ。何をがんばるのか。砂糖中毒を耐え抜くということである。
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マイケル・ラパポートによるATCQのドキュメンタリー映画のなかで、ファイフは自らの糖尿病について、「砂糖中毒」だと語っている。常に甘いものを口に入れたいという衝動と闘いながらファイフは生きてきた。この映画を見ると、1998年に解散してしまったATCQのグループ内不和の一因に、ファイフの病気の問題があったことは間違いないことがよくわかる。ファイフはスーパースターでありながら、根治することのない病気とつきあい続けてきた。
話を"Dear Dilla"に戻そう。そんなファイフが死の2年前に撮影したMVだ。例えばこんなシーンがある。砂糖たっぷりのドーナツをあきらめるファイフ。
スニッカーズ的なものを目の前にぶら下げられてランニングに勤しむファイフ。
病院で腎臓の診断を受けている様子も描かれる(ATCQのアリもカメオ出演している)。
そして、度重なる努力の積み重ねのあとに、ファイフはついにステージに帰ってくる。そして、自分を支えてくれた人たちへの感謝を伝えたあと、最後につぶやく。"ATCQ Forever......"
とにかくこのMVを見てほしくて書いたエントリなのだけれど、最後に一曲だけ紹介させてほしい。ファイフの没後すぐに発表された"Nutshell"というMVだ。これは、J Dillaのトラックの上で、ファイフが自らを「一言で in a nutshell」表し続ける曲で、それ自体とてもかっこいいのだけれど、曲の前後に長年シーンを共にしてきた仲間たちからのメッセージが入っていてとても切ない。
De La SoulのPosやMase、Rakim、Redman、そしてもちろんATCQのメンバーなどが「ファイフを一言で表すなら」という問いに答えている。"Phife is in a nutshell to me..." それぞれの答えはぜひMVを見てみてほしい。生きている限り、がんばって生きよう。
プロフィール
望月優大(もちづきひろき)
慶應義塾大学法学部政治学科、
Twitter @hirokim21
Facebook hiroki.mochizuki
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The Ummah制作のATCQの楽曲群。3曲ともクラシックとしか言いようがない。グループにとっては不幸な時期だったけれど、曲はかっこいい。