望月優大のブログ

見えているものを見えるようにする。

富める国の不平等。稲葉振一郎『不平等との闘い』を読んで。

一般の方で稲葉振一郎先生のことを知っている方はあまり多くないかもしれませんが、これを機にぜひ知っていただきたいと思う学者の方です。特筆すべきは、経済学、社会学、政治理論など様々な学問領域を架橋する学際性、加えて専門性を落とすことなく一般の…

名門大学の卒業生に向けてオバマが語ったこと。

オバマ大統領が名門ラトガース大学の卒業生に贈ったスピーチが素晴らしかったので紹介します。既出の報道ではトランプ批判的な文脈が強調されていましたが、それを差し置いてもとても良い内容でした。40分超のスピーチを全文取り上げるのは難しいので、後半…

イランは危険で、飯がまずくて、カルチャーも歴史もないただのでかい砂漠だ。だからDON'T GO TO IRAN。

DON'T GO TO IRAN。直訳すると「イランに行くな」ってタイトルの動画なのですが、Twitterで流れてきて観た瞬間、「うおおイラン行きたい!」ってなりました。学生のころ北西部に数日行ったきりなのでまた行きたい。 イランってこんなところにあって、アフガ…

山と人間。ペルーのアンデス山脈で考えたこと。

旅行でペルーに来ています。目的の一つがアンデス山脈を眺め、歩くこと。北部のワスカラン国立公園にはペルー最高峰の山々があり、1985年に世界遺産にも指定されています。世界で最も高いところにある国立公園です。 下のパノラマ写真を見てください。4700m…

熊本地震の被災者以外の方へ。「自分の防災」と向き合えるのはきっと今だけです。

熊本地震の被災者以外の方へ。このブログは、いまこのブログを落ち着いて読むことができる状態にある人に向けて書いています。 現地で大きな被害に遭っている方の助けになりたいという気持ちから寄付をしたり、有用な情報をシェアしたりすることは大事なこと…

パナマ文書問題を見る視点② 底辺への競争

一昨日パナマ文書問題を考える前提として、タックスヘイブン問題の構造を簡単にまとめた。そこでは、資本のグローバルな還流に対する国家権力の徴税能力の限界ということを書いたのだが、国家が自らの徴税能力を強化する(例えば移転価格税制を取り入れる)…

1型糖尿病患者だったATCQのファイフがJ Dillaに贈った"Dear Dilla"のMVがとてもとても切ない

ATCQのラッパー、ファイフ・ドーグが先月23日に亡くなった。彼は少年時代から1型糖尿病を患っていて、インスリン注射を打ちながら生活していた。ファイフはのちに奥さんから腎臓移植も受けている。そんなファイフがついに亡くなった。ヒップホップ好きなら…

パナマ文書問題を見る視点

パナマ文書問題は、話の前提としてタックスヘイブン問題の構造がわからないと理解できないと思うので簡単にまとめる。基本的な知識は志賀櫻『タックス・ヘイブン』を読むことによって得られる。 タックスヘイブン問題は、国家権力の徴税能力の限界という問題…

『サウルの息子』とは誰か。死の大量処理という単純労働のあとで。

先週末、新宿のシネマカリテで『サウルの息子』という傑作を観た。 描かれるのは、1944年10月のアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所とそこに収容されるユダヤ人たち。特にサウル・アウスランダーというハンガリー出身のユダヤ人、彼の顔が至近距離のカメ…

家族主義的福祉からの脱出。17年前にエスピン=アンデルセンが日本について語ったこと。

イエスタ・エスピン=アンデルセンという福祉国家論(正確には福祉レジーム論)の大家がいる。デンマーク人の学者で、20世紀の福祉レジームを「社会民主主義的」(北欧諸国等)、「保守主義的」(ヨーロッパ大陸諸国等)、「自由主義的」(アングロ・サク…

アラブの春以後の世界。マフマルバフ『独裁者と小さな孫』が映すもの。

先日の連休中に下高井戸に行った。下高井戸シネマに行くためだ。下高井戸シネマは公開から少し時間が経った単館系の映画を多く扱っていて、新宿や渋谷の映画館でやっているのを見逃してしまったときにお世話になっている。 今回のお目当てはイラン出身の映画…

「意識高い」を再定義したうえで称揚したい

ここ数年で人をバカにしたり茶化したりするための言葉になってしまった「意識高い」。あいつも「意識高い」し、こいつも「意識高い」。どいつもこいつも「意識高い」。とはいえ「意識高い」人が世の中に少ないほうがいいのか?と問われるとなんとなく首をか…

モチベーションは0か100。復活後のLIBROがかっこ良すぎる。(※本屋じゃなくてラッパーのほうです)

90年代から活動を開始した老舗トラックメーカー兼ラッパーのLIBRO。しばらく潜伏気味だったので、ある種伝説的な存在ではあったのだけれど、2015年に大復活。しかも、その後は1年で3枚アルバムを出すという圧巻の働きぶり。最近改めてそれらの音源をまとめ…

自分の頭で安全保障を考える。井上達夫『憲法の涙』を読んで。

憲法が注目を集めている。直接的には、現政権による憲法九条の解釈改憲とそれに対する国会前デモを含む広範な批判、そして来る参院選の結果如何では自民党が視野に入れる憲法改正の現実味がいや増すという状況がある。 さて、いわゆる安保法制への批判の文脈…

根本的で、予期できなかった出来事の証人。5回目の3.11に寄せて。

2016年3月1日仕事から家に帰ってテレビをつけると、5年前に現地で津波を経験し、いまだその苦しみと付き合い続けている青年についての特集が流れていた。雁部那由多さん、いま高校1年生で当時は小学校5年生。そのとき自分が遭遇してしまった経験を自分以…

デモから政党へ、当事者から代弁者へ。「保育園落ちたの私だ」に寄せて。

昨日国会前でデモがあった。はてな匿名ダイアリーの「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名の投稿に対して、国会で首相を中心に「それ誰が書いたの」といった趣旨の発言があった。それに対して多くの「当事者」たちが「それは私だ!」と国会前に集まった…

名前を公募する前にコンセプトを固めてほしい(切実)

がんばってほしいと思っているからこそあえてまじめに書きますよ。。。 野合して数を増やしたくなる気持ちもわかります。夏の参院選が迫っていて、いまのままでは確実に勝てない。でも、野合だってことがあからさまだからこそ、政策のコンセプトをどこまです…

認知症を描いた「RUN TOMORROW」の映像が凄かった。じんわりと感覚を揺さぶるクリエイティブの力。

個人的な関心とか仕事柄もあって、NPOの方を始めとして社会問題の現場に従事されてる方とお会いしたり、あるいはマクロな統計データを眺めたりということがよくあります。 ただ、そういった問題について人々の関心を高めることの難しさというか、一時的に泣…

VICEで観た女性スノボクルー「TOO HARD」のビデオが最高だった

こんなに素晴らしいビデオなのに全然観られていない!YouTubeのカウンターが1万回くらいしか回ってない・・無料で観れるのにもったいなさすぎる・・!みんな観よう!という趣旨のブログです!伝えたいことはそれだけです! で、内容はというと・・ TOO HARD…

日本語ラップは社会を歌う。いま聴いてほしい5つのパンチライン。

フリースタイルダンジョンのおかげで、大好きな日本語ラップがにわかに盛り上がっているようです。素晴らしい!「ラッパーってこんなことできるのか」ってびっくりしている人がたくさんいると思うので、自分が好きなリリシストすぎる日本語ラップを5曲紹介…

ゆるい喫茶店の話

ゆるい喫茶店が好きです。確実に昭和からあるんだろうなって思わせるメニューや内装のお店が、街の片隅にひっそり残ってることありますよね。「喫茶○○」とか「○○珈琲」みたいな名前だったりして。あの雰囲気が好きです。 こういうお店って食べログの点数が低…

メディアと公共性についてのメモ

明日R-SICというカンファレンスで「メディアと公共性」についてのセッションに参加させていただきます。正確には「誰が次の時代のジャーナリズムと公共性を担うのか?〜社会を考えるメディアとビジネスモデル〜」というセッションです。不慣れなパネルディス…

雑感:2015年フランス州議会選挙

フランスの州議会選挙第2ラウンド=決選投票で移民排斥を唱える極右政党・国民戦線 Front National/FN が惨敗。第1ラウンドでは国民戦線が6つの州でトップだったが、投票率の全般的な上昇や社会党による二つの地域での候補者取り下げ=右派連合との選挙協…

書評『数学する身体』(森田真生 著)

森田さんが本を書いた。1985年生まれ、30歳の年である。 数学する身体 作者: 森田真生 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/10/19 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 森田さんは独立研究者。研究者と聞いて思い浮かべる範囲を大きくはみ出た活…

一億総活躍的な言葉遣いについて

一億総活躍担当相という役職が設けられたらしい。どんな役職なのか、詳しく知らない。ただ、またか、という気持ちである。 英訳を見ると、一億というのは全国民の比喩であるようだ。Minister in Charge of Promoting Dynamic Engagement of All Citizensだそ…

"正統と異端" の理論的エッセンス

西洋中世史家、堀米庸三先生の『正統と異端』を読んでいてこれはブログにメモしておきたいと思った部分があったのでご紹介します。 中世ヨーロッパのキリスト教の話をしながら堀米先生が抽出する "正統と異端" についての理論的エッセンスは、切れ味が鋭すぎ…

宇野重規『民主主義のつくり方』を読んだ

民主主義のつくり方 (筑摩選書) 作者: 宇野重規 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2013/10/15 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (19件) を見る プラグマティズムから民主主義を考える トクヴィル研究者の宇野先生による、プラグマティズムを強く参照…

大竹弘二+國分功一郎『統治新論』を読んだ

民主主義の意味を再考させる良書 統治新論 民主主義のマネジメント (atプラス叢書) 作者: 大竹弘二,國分功一郎 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2015/01/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る シュミット研究者の大竹先生と、スピノザ…

池内恵『イスラーム国の衝撃』を読んだ

Facebookで日々迫力ある投稿をされている池内恵先生の新著。イスラーム国だけでなく、アル=カーイダに連なるグローバル・ジハードの系譜も含めてわかりやすく整理されており、今読むべき本だと思います。おすすめします。 イスラーム国の衝撃 (文春新書) 作…

フランスのテロ事件について考えた

「テロとの戦争」 シャルリー・エブド紙へのテロ事件について考えていることを書いておこうと思います。風刺画の中身そのもの及びそれに対する公的な規制の是非については措くとして、今回のテロ事件を機に改めて現代社会における自由と安全のねじれた関係に…